ナツメグの全体の構成について考える



ナツメグにおける全体の話にて共通的に意識されていたのが
「思い出」と「変化」であったように感じます。

元々「部活」を作った理由は由佳子が遠くへ引っ越してしまうから。
それは間違いなく敦志、シゲオ、実梨、そして由佳子の関係に「変化」を生じさせます。
その「変化」に立ち向かう為、不変である「思い出」作りをしよう、というのが大まかな流れです。

思い出を作るために、それを「部活」という形にし、
4人に加えて、円、ほとり、セリスの3人を加え、7人でより固い絆を結ぼうと試みます。
事実、シナリオにおける共通パートはどれも根底にあるのは「思い出」作りであり
7人が互い違い絡むことで、プレイヤー視点から見て、強い絆を印象付けています。

由佳子シナリオにおいての由佳子の葛藤として、昔の主人公との思い出が無いことがあります。
しかしそれは、由佳子シナリオでちゃんと消化されます。
絆を結ぶためには、時間は大した問題ではないという結論が出ているのです。
これは由佳子シナリオだけに言えることではなく、共通パートにおける7人全員に当てはまります。
約3ヶ月という短い期間ではあるものの、不変の「思い出」を作ることに成功している様子が描かれています。

しかし、どのシナリオにおいても、共通パート終了後、二つの「変化」が訪れます。
由佳子(本当は他の一部キャラも含む)の別れと、主人公と任意のキャラの恋愛です。
特に、前者の「変化」はあらかじめ予期されていたものです。
この「変化」に立ち向かう為、思い出作りに励んでいたのです。

由佳子シナリオ以外での由佳子は、この「部活」の思い出を心にとどめ、
「思い出」を糧に前向きに生きていくことが予想されます。
また、主人公と任意の相手は、7人の絆のほか、人生のかけがえの無いパートナーをも支えにして、未来へと進みます。
「部活」は事実上終了しても、「思い出」が皆を、そして二人を繋ぎ止めるのです。
これがほとりシナリオ以外でのナツメグの話の形です。


唯一の例外がほとりシナリオです。
すでに分かっていることとは思いますが、ほとりシナリオにおいては7人の「絆」「思い出」は作られません。
正確には「絆」「思い出」がほとりによって消されてしまいます。
周囲は6人が当たり前だと思い込み、主人公だけが本当のことを知っています。
そのことで、主人公だけが唯一「思い出」を支えに前を向くことができず、後ろ向きとなってしまいます。
いわば、ほとりとの思い出に縛られた状態、未来を見るのではなく、過去に対する羨望だけが主人公には残ります。

「思い出」が主人公と5人の繋ぎとならない為、周囲は主人公に対し、関係を保とうと試みますが、上手くいくはずがありません。
次第にそれは、仲間全体の「絆」の崩壊へと繋がっていきます。
皆が同時に顔を合わせる機会が減り、それに伴い関係の希薄化が見られてくるのです。
ここで「絆」が強固なものならば、機会が減っても関係は薄くはならなかったでしょう。
しかし、「思い出」にズレが生じてる為、少しずつそれは関係のズレへと形を変えていきます。

「絆」の崩壊の、最大かつ最も象徴的なイベントが、由佳子の結婚です。
これが決定的となり、「絆」は完全に崩壊してしまいます。
ほとりの消失を受け入れられず、現実を上手く生きれなかった結果が、全てを失った形となってしまいます。
前を向かない主人公は、「絆」の脆さ、儚さを実感することとなります。


しかし、ここからほとりエピローグの後半部分となり、雰囲気が一変します。
電子レンジで卵を爆発させてしまうことで、ほとりのことを思い出します。
完全に消えたと思ったモノがふとしたことで蘇るわけです。
ここから主人公は「思い出」をただの過去から、前向きなものへと昇華させます。
「思い出」は過去にあるものではなく、それを生かして現在の自分はどうあるべきかを導くものだということに気づくのです。

この発見は同時に、「絆」の修復へと繋がります。
5人とは「思い出」に差異があっても、あくまで今を生きているわけで、
「思い出」が現在の自分の生き方を示してくれます。
その結果、「思い出」を糧に前向きに生きていくことができるのです。

長い年月を経て、ようやく「思い出」を支えにすることができた主人公は
ここでようやく「部活」から帰ってきて、「変化」を受け入れることが出来ます。
ほとりエピローグにて、主人公は「みんな変わってないな・・・」と自分にあたかも言い聞かせているような態度を取り、
実梨に「あんた・・・あの部活が終わった頃から、どっか行ったまま、帰ってきてないわよ・・・」と言われてしまいます。
その後、立ち直った主人公は、前述の通り、「思い出」を前向きなものと捉え
ほとりとの思い出をプラスに生かすことが出来るようになるのです。

そしてついに、主人公はほとりのことを完全に思い出し、ほとりと再会を果たす――。
これからは「思い出」を支えにするだけでなく、二人で作っていこう。
というのがほとりエピローグ後半部分となります。



ほとりを失ったことで、思い出に縛られたまま大人になった主人公。
また、周囲も、大人になるにつれて「思い出」を忘れていき、「絆」を失っていきます。
ここに、「思い出」を生かせない悲しさが表現されており
エピローグ後半の主人公の復活はまさに「思い出」を生かせた形を表現していると同時に
シンプルに「思い出」の大切さを伝えています。

例外として取り上げたほとりシナリオも、帰着するところは同じです。
主人公は「思い出」を生かすことができ
その時から、大切な「思い出」を蘇らせてくれる夏が、毎年巡ってくるようになったのです。
毎年、巡ってくる夏を、大切なものに変えることが出来たのです。
今年も、大切な夏が巡ってくる――。

『ナツメグ』はそんな切なく楽しい夏のお話なのです。




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